妖精
『実は妖精を見たことがあるんです。
アレは間違いなく妖精だった。』
長野で出逢った初対面の初老の男性に
突然そんな体験を告白されたことがある。
英国のフィンドホーンという地域を
訪れた際の出来事だったそうで、
見てはいけないものを見てしまったような
収まりのつかない気持ちを
誰にも打ち明けられずにいたそうだ。
武道で鍛えたという屈強な体型の彼の印象と
可憐な妖精の話とのミスマッチさが、
話の信憑性をいっそう高めていた。
何よりまるで神父に懺悔するように
言葉を探しながら告白する様子には、
もはや疑いを挟む余地はなかった。
話を終えると彼は、
まるで解除が難しい時限爆弾を人に託したような
安堵感に包まれた表情を浮かべていた。
いつかフィンドホーンを訪れてみたくなった。