山の怪
明け方の林道を歩いていたときのことである。
何かを咥えた一匹の山犬と出くわした。
僕も驚いたけれど山犬も相当に驚いた様子で
咥えていたものを落として茂みの中へと逃げて行った。
残されたものに近づいてみた。
それは山犬にさんざんいたぶられ
まさに息を絶えようとしているタヌキだった。
さすがに林道にそのまま放置していくわけにもいかず
茂みの中に移してやることにした。
可哀想に抱きかかえてもピクリとも動かず
だらしなく垂れ下がった舌が
生命の終焉が近づいていることを物語っていた。
茂みの中に安置してその場から立ち去った。
両腕に残る生命の温もりに少し戸惑いながら
林道をしばらく進んだときのことである。
何かの気配に振り返ると、
なんと先ほどの場所でタヌキが
置物のように座ってコチラを見つめているではないか。
はじめてのリアルタヌキネイリとの遭遇だった。
驚きと安堵が入り混じった
どこか現実離れした気分で山を降りた。